多文化共生社会を考える
ことばと多文化共生
同志社女子大学特任教授 藤原 孝章

日本に暮らす外国人を取り巻く壁には、「制度、言葉、心」という三つの壁があるといわれています。「制度の壁」は外国籍による公民権の制限などで、「心の壁」は私たちの偏見や差別によるものです。「言葉の壁」は日本語が不十分であることによってもたらされる、社会参加への制限です。

しかし、このような壁を乗り越えようとする取組も模索され、実行されています。今回は、「言葉の壁」を乗り越える取組を紹介します。

最近の日本の小学校では、外国籍・日本国籍を問わず、外国にルーツを持つ子どもが在籍している事は珍しくありません。外国にルーツを持つ子どもが多い学校では、子どもたちに日本語補助教員がついたり、日本語教室が設けられています。しかし、現状は外国にルーツを持つ子どもは校内に数名のみで、それらの支援が不十分な学校の方が多く存在します。

その際に悩ましいのは、遠足・運動会・入学式・卒業式などの学校行事、給食・掃除・持ち物など学校の日常についての保護者への連絡です。保護者は日本語が理解できないことが多く、教育の文化的背景が異なるため、従来のような一片の通知文書ではその目的を果たすことはできません。難しい漢字を避け、ひらがなを多くしたり、ルビをふったりと言語的な対応は可能でも、文化的な違いは克服できません。

そこで大阪市では、文書の中に写真をたくさん使用したり、メッセージ動画を作成して動画サイトに投稿し、二次元コードで読み取れるようにしている学校があります。また、母国の人気漫画のキャラクターを使った冊子を作成し、保護者に配布している滋賀県の学校もあります。

言葉の問題で重要なことは、日常会話の言語と学習に必要な言語の差が大きいことです。不自由なく日本語が話せているからといって、教科書の内容が理解できるとは限りません。多国籍の子どもが多い大阪市の学校では、カメラ付きの携帯型自動翻訳機を持たせて、教科書の文章を翻訳させ、理解の一助にしています。デジタル教科書に入っている、ルビうち文章も活用されています。

最後に、言葉は豊かな人間関係やコミュニケーションを通してこそ上達します。NPO法人などが各地で試みている、放課後の学習支援や生活への助言、友達ができるような居場所づくりも大切なことです。

【問合せ】秘書課(0798・35・3459)

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