地域住民の想いを乗せて、人とまちをつなぐコミュニティバス「ぐるっと生瀬」
更新日:2019年3月5日
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生瀬地域を走るコミュニティバス「ぐるっと生瀬」
西宮市の北東、山あいに位置する生瀬。
六甲山の麓に位置し、中央に武庫川が流れる緑豊かな住宅地です。
そんな生瀬を走る一台のコミュニティバス「ぐるっと生瀬」を知っていますか?
14人乗りの小型バスは今日も生瀬の急な坂道や細い小道をすいすいと走っています。
生瀬地域の住民が主体となって、住民のために作った「ぐるっと生瀬」。
このコミュニティバスを通して行われたまちづくりの取り組みを取材しました。
コミュニティバス「ぐるっと生瀬」が走るまで
生瀬地域は1960年代以降に山を切り開いて開発されたニュータウンです。
ここには急な坂道や狭い道が多く、移動はもっぱら自家用車に頼るライフスタイルでした。
さらに近頃では、高齢化率が3割と市内でも高く、お年寄りを中心に、気軽に外出することが難しい住民が多くいました。
自然に囲まれた生瀬地域
当初、この課題を深刻に思った住民たちによって、カーボランティア(希望者を送迎する活動)が実施されていたそうです。しかし、経費や人手不足などが課題となり、継続を断念。
それでも諦めなかった住民は市や自治会に相談し、コミュニティバスのあり方を考える研究会で1年半かけて話し合いました。
ぐるっと生瀬運行協議会 事務局長の石原さん
ニュータウンの開発が始まったころに生瀬へ移住し、現在「ぐるっと生瀬運行協議会」で事務局長を務める石原さんはこう振り返ります。
「当初、私は(コミュニティバスの運行に)反対の立場だったんですよ。続けていくのは大変ですし、自ら選んで暮らし始めたんだから自分のことは自分でやらないと、という想いが強かったんです。でもこの地域の高齢者の状況を実際に調べてみると、『これはやらなきゃいかん!』と思ったんです」
実際、無料の試験運行の際には、多くの方が利用し、お年寄りを中心にコミュニティバスの運行を待ち望んでいる姿が見られたそうです。
有料試験運行のオープニングセレモニー
JR生瀬駅にて開催
2013年には事業者として阪急タクシーが加わり、2回の有料試験運行を経て、「ぐるっと生瀬運行協議会」が結成されました。そして、2015年10月1日より本格的に「ぐるっと生瀬」の運行が開始されたのです。
運行開始式では、運行の安全と運営の安定を祈祷してもらいました
現在、「ぐるっと生瀬」は5ルート、24便が運行。阪急宝塚駅を起終点とし、生瀬地域を巡回しています。乗車人数は年々増え、全国のコミュニティバスの中でも高い収支比率となり、地域の足として定着しつつあるようです。
ぐるっと生瀬がもたらした変化
さらに、「ぐるっと生瀬」は地域住民にさまざまな変化を生んでいます。
たとえば、お年寄りの中には、自家用車の利用を控えたり、運転免許証を返納する人もいたり......。「バスの時間に合わせて、買い物や診察の時間を決めるようになった人もいる」と、石原事務局長。
また、顔なじみの運転手さんは、気さくで親切なため、「小学校低学年のお子さんが一人でも安心」との声も。
取材日の運転手さん。優しい笑顔です
その他にも、車内で偶然昔の友人に再会したり、同じ地区に住みながらも話したことがない人とも交流を深め「バス友」ができるなど、住民同士の結びつきが強まっているようです。また、隣の地区へお出かけするようになった方も多く、地域の結びつきも強くなったのだとか。
もっと利用しやすい「ぐるっと生瀬」にするために
そんな現在でも、もっと利用しやすいコミュニティバスにするため、精力的に取り組んでいます。
常任理事会には各地区の自治会会長、関係団体、学識経験者、阪急タクシー、西宮市職員が集まります
毎月開かれる常任理事会では、前月の利用者数など運行状況を報告したり、改善していきたいことを話し合います。
さらに、月に1回停留所で利用者の方からの意見や感想を聞いています。利用者の方とのコミュニケーションを大切にし、積極的に意見を聞き入れるように心がけているそうです。
車内での忘れ物は掲示板にてお知らせ
また、バスの周知・利用促進のPR活動もさまざまなところで展開。たとえば、運行情報や地域のイベント情報などを掲載する会報「ぐるっと生瀬でGO」を発行。
住民のご自宅に配布したり、車内にも掲示しています
学校行事や地域のイベントでは、運行協議会で生まれたマスコットキャラクター「ぐるっとちゃん」も一緒に。子どもたちに大人気のぐるっとちゃんのおかげで、「ぐるっと生瀬」を知る人が増えてきたのだとか。
ぐるっとちゃんも参加する小学校でのPR活動
兵庫県の中学生が職業体験をする「トライやる・ウィーク」で、中学生が運行をサポート
園児たちの乗車体験
このように運行継続のために取り組まれている活動は、バスの利用促進だけでなく、地域の活性化にも一役買っています。バスへの愛着と地域への愛着がともに高まって、「ぐるっと生瀬」が地域を盛り上げる起爆剤になっているようです。
「地域のために」という想いが実って......
そして、これまで取り組まれてきた活動が認められ、2016年地域公共交通優良団体国土交通大臣表彰をはじめ、さまざまな名誉ある賞を受賞しました。
また、運行前から「ぐるっと生瀬」の取り組みに関わってきた西宮市では、2014年よりコミュニティ交通に関する支援制度を立ち上げました。(※詳細はこちら(PDF:916KB))
この支援制度について、西宮市交通計画課 副主査の古市さんにもお話しを聞きました。
西宮市交通計画課 副主査の古市さん
「これから急速な高齢化の中で、高齢者の方などの移動手段の確保が全国的にも課題になっています。生瀬での取り組みを参考に、他の地域でも支援していければと思っています。市は地域住民の方の主体的な取り組みへのサポートや、生活移動手段の確保を目的としたコミュニティ交通の運行に必要な費用の助成などの支援制度を設けています」(古市さん)
やはりコミュニティ交通の継続的な運行のためには行政の支援も必要になります。また、利用者の方の理解と協力が不可欠なのも事実です。
大人300円(小学生200円)という利用料金は少し割高なのでは、などの声もありますが、バス停で「ぐるっと生瀬」を待つ利用者の方にもお話を聞くと、「少し高いけど、このバスがないと不便なんよ。すごく助かってる。だから何かあったら乗るようにしてる」と、おっしゃっていました。
車内に掲示される乗客数。住民の理解や協力によって成り立っている「ぐるっと生瀬」。
なぜ生瀬地域の住民は、このような取り組みに積極的なのか、運行協議会の阪上理事長に聞きました。
「この地域は、西宮市の中でもほかの地域との行き来がしづらい、いわゆる"飛び地"のような場所であるがゆえに、地域住民でなんとかしなきゃっていう想いが強いんだと思います。だから地域でなにか起きたら、まずは地域でどうにかしなきゃという想いですかね。そして、この事業は決して地域住民単独でやっているわけじゃない。市やいろんな関係団体が関わってくれています。その方々への感謝と信頼関係があるから実現できたのだと思います」と、地域への想いに賛同する人々とのつながりの強さを感じているようです。
阪上理事長。他のさまざまな自治会活動にも取り組んでおられます
さまざまな人たちの想いを乗せて走り続ける「ぐるっと生瀬」。
運行開始までの道のりは決して平坦ではありませんでしたが、現在では、地域の足となり、活力となっています。
そして、人やまちをつなぐ「ぐるっと生瀬」は、今日も元気に運行しています。
ご乗車お待ちしております!
NISHINOMIYA COMMONS編集部
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