「第39回 西宮湯川記念賞受賞者」が決定しました
更新日:2024年10月28日
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森本高裕氏「第39回西宮湯川記念賞」を受賞
西宮市では、理論物理学分野における研究者を奨励するため、若手研究者(40歳未満)の顕著な研究業績に対して、西宮湯川記念賞を贈呈しています。
令和6年度は全国から14件の推薦がありました。
西宮湯川記念賞選考委員会(委員長:井岡 邦仁 京都大学基礎物理学研究所・教授)および西宮湯川記念事業運営委員会(委員長:青木愼也 京都大学基礎物理学研究所・所長)での審査の結果、森本高裕氏が受賞者に選ばれました。
記念賞贈呈式は令和6年12月7日(土曜日)13時から、西宮市フレンテホールで行われます。
なお、贈呈式は別事業の「西宮湯川記念科学セミナー」とあわせて実施し、市民の皆様にもご参加いただけます。
参加をご希望の場合は事前のお申込み(11月15日必着)が必要です。
申込方法等の詳細は、下記のリンクから、科学セミナーの受講者募集ページをご覧ください。
【受賞者】
森本 高裕(もりもと たかひろ)氏
東京大学大学院工学系研究科物理工学専攻 准教授
(受賞者写真の無断使用を禁じます)
【受賞研究】
「物質中の幾何学に駆動された非線形応答現象の理論的研究」
【受賞理由】
入射光に比べ2倍の周波数を持つ光が出射される高調波発生などの非線形光学現象の中で、物質への光照射により直流電流が誘起される光起電力効果は、私たちの生活にも欠かせないものになっている。例えば、太陽電池では半導体pn接合での光起電力効果が利用されている。近年、ペロブスカイトと呼ばれる物質群において、接合を用いない単一物質で高効率光起電力効果が発見され、それを説明するためにシフト電流と呼ばれる新しい概念が提案された。しかし、計算式が複雑なため、その物理的な描像を得るのが困難であった。
森本氏は、物質中の幾何学的概念にもとづき、フロッケ理論とケルディッシュグリーン関数法を用いて、非線形光学応答現象の理論を構築した。この手法はシフト電流の簡便な計算法を与え、また物理的描像も明確にした。すなわち、シフト電流は光による電子励起の際の電子位置のずれに由来し、そのずれが物質中の電子波の微分幾何的性質に起因することを示した。さらに、森本氏はこの定式化を用いて (1)シフト電流における電流と電圧との関係の計算、(2) 励起子(電子と正孔との束縛状態)によるシフト電流の提案、(3)マルチフェロイック磁性体と呼ばれる特殊な磁性体でのシフト電流の提案、(4) フォノン(結晶を構成する原子の振動)によるシフト電流の提案、などの成果を上げ、その多くがすでに実験で検証されている。電気的に中性である励起子が電流を担うことや、原子振動であるフォノンが電流を流すことは驚くべき結果である。この研究により、励起子・フォノンなど固体中の多様な励起が光起電力効果を示すことが判明し、これまで光起電力効果と無縁だった低周波数の光による光起電力効果の存在が実証され、高効率の太陽電池の開発なども期待される。このように森本氏の非線形応答現象の理論は西宮湯川記念賞に相応しい業績である。