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西宮湯川記念賞受賞者(第11回~第20回)

更新日:2018年3月27日

ページ番号:18581508

所属・肩書は受賞当時のものです。

第11回(1996年)岡田(おかだ) 安弘(やすひろ) 氏 山口(やまぐち) 昌弘(まさひろ)

贈呈式年月日

1996(平成8)年11月9日

受賞者

岡田 安弘 氏(高エネルギー物理学研究所 助教授/写真上)
山口 昌弘 氏(東北大学大学院理学研究科 助教授/写真下)

岡田氏、山口氏

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受賞研究

超対称標準理論におけるヒッグス粒子の質量

受賞理由

 素粒子の標準理論は、近年のトップクォークの発見と精密な加速器実験データとの比較により、確立された基礎法則となった。しかし、そのゲージ対称性の起源に関わる自発的対称性の破れの詳細な機構は、その担い手と考えられているヒッグス粒子がまだ見つかっていないこともあって、不明である。
 標準理論の背後にあるより深い究極の法則として、多くの研究者が探求しつつある大統一理論とスーパーストリング理論においては、ボーズ粒子とフェルミ粒子に関する超対称性が重要な役割を果たすことが、理論的に予測されている。超対称性の存在はまた、最近の強弱結合定数の精密データにより、実験的にも支持される根拠を得た。
 岡田安弘氏と山口昌弘氏は、柳田勉教授とともに、最も簡単かつ基本的な超対称性理論においてヒッグス粒子の質量に関する重要な成果を世界にさきがけて発表し、国際的に高い評価を得た。
 すなわち、ヒッグス粒子の質量上限は、Z粒子の質量以下と従来考えられていたが、トップクォークの質量が大きいことを考慮すると大幅な修正が必要であり、約100-200GeVになることを、有効ポテンシャルとくりこみ群を用いた研究によって示した。
 この研究は、ヒッグス粒子探索を最大目標とする高エネルギー物理学の次期の加速器計画の変更をせまるとともに、標準超対称性理論の妥当性を検証する重要なポイントを示すことにより、素粒子理論のその後の研究の方向に画期的なインパクトを与えた。

第12回(1997年)初田(はつだ) 哲男(てつお)

贈呈式年月日

1997(平成9)年11月13日

受賞者

初田 哲男 氏(筑波大学物理学系 助教授)

初田氏

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受賞研究

核媒質中におけるハドロンの動的構造の研究

受賞理由

 物質の基本構成要素であるクォークとグルオンは核子や中間子などのハドロン内に閉じ込められており単純では観測できない。しかしながら超高温、超高密度の極限状態では、クォーク・グルオンプラズマと呼ばれる新しい物質相が実現すると考えられている。
 受賞者は、世界に先駆けて、この相転移の前駆現象としてクォークとグルオンの束縛状態であるハドロンの質量が、密度に比例して減少することを量子色力学に基づいて見出した。
 この現象は、現在CERN及びBNLで計画中の超相対論的重イオン衝突実験をはじめとするいくつかの実験計画で、観測できるものとして期待されている。
 超高密度、超高温での物質の構造を解明する手がかりとして受賞者の業績は高く評価できる。

第13回(1998年)草野(くさの) 完也(かんや)

贈呈式年月日

1998(平成10)年11月5日

受賞者

草野 完也 氏(広島大学大学院先端物質科学研究科 助教授)

草野氏

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受賞研究

電磁流体力学的最小エネルギー原理に基づく太陽フレア発現機構の研究

受賞理由

 太陽フレアは太陽コロナ磁場中に蓄えられたエネルギーが爆発的に解放され熱エネルギーに変換される現象であると考えられてきたが、何故そのエネルギー解放が爆発的に発現するかという問題は太陽物理学における最も重要な課題として残されてきた。
 草野完也氏はこの問題に電磁流体力学的最小エネルギー原理に基づいて理論的ならびに計算物理的に取り組み、解の分岐という概念をコロナプラズマに導入することによって、「分岐遷移フレアモデル」を提唱した。この理論によって太陽フレアにおいて磁気再結合が不可避的に生じることを示し、太陽フレアの発現機構を物理的に自然に説明することに成功した。
 我国の太陽観測衛星「ようこう」(1991年打ち上げ)による観測によって、太陽フレアの発現機構が磁気再結合とそれによる電磁流体力学的ショックであるとする確かなデータを得たと報告している。これは草野理論の正当性を支持するものである。
 太陽物理学の最重要課題の研究が、我国の研究者によって理論、観測両面において大きく前進させられたことを大いなる喜びとする。

第14回(1999年)小形(おがた) 正男(まさお)

贈呈式年月日

1999(平成11)年11月5日

受賞者

小形 正男 氏(東京大学大学院総合文化研究科 助教授)

小形氏

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受賞研究

一次元強相間電子系の研究

受賞理由

 現代の技術を支える半導体の機能を支配しているのが、その中を動く電子の振舞いであります。多くの場合、電子は互いに独立に運動すると仮定したバンド理論がこれを見事に記述しています。
 しかし中には、電子間の相互作用が重要な役割を果たす強相関電子系と称される物体もあります。その典型的な例が、近年、理論物理学の大きな挑戦課題となっている「高温超伝導」です。
 小形正男氏は、1次元における強相関電子系の究明に重要な貢献をされました。相互作用が強い極限での1次元ハバート模型の厳密な波動関数を見出し、そこでは完全にスピンと電荷が分離していることを示し、それを用いて相関関数を初めて求め、厳密解と朝永・ラッティンジャー液体との関係を明らかにし、その後に発展する「共形場理論」に影響を与えました。
 さらに、小形氏は「高温超伝導」の有力なモデルである「t-Jモデル」の1次元版に対する解析的、数値的研究により、この系の相図をほぼ完全に解明しました。
 このモデルの研究は現実の2次元系にも展開されており、小形氏が「高温超伝導」の研究に与えた貢献は高く評価できます。

第15回(2000年)石橋(いしばし) 延幸(のぶゆき)

贈呈式年月日

2000(平成12)年11月2日

受賞者

石橋 延幸 氏(高エネルギー加速器研究機構 助教授)

石橋氏

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受賞研究

境界を持つ共形場の理論および行列模型による構成的超弦理論の研究

受賞理由

 超弦(スーパーストリング)理論は、重力まで含めた自然界の全ての力と全ての物質場を統一的に記述する「究極の理論」であると期待されており、近年活発な研究によりますますその豊富な理論内容が明らかになってきている。
 石橋延幸氏は、1980年代の末、開いた弦の世界面に対応する「境界を持つ2次元面」の上で矛盾のない共形場の理論を構成する方法として、「境界状態」を解くという見通しの良い定式化を提唱し、広汎な共形場理論を与えることに成功した。
 この状態は今日「石橋状態」と呼ばれ、低次元物性系への応用のみならず、最近の弦理論の展開において開いた弦が重要な役割をする中で多くの応用を見出し、ますますその重要性が再認識されてきている。
 石橋氏はさらに最近、川合光、北沢良久、土谷麻人の三氏とともに、超弦理論を摂動論によらずに構成的に定義する全く斬新な理論を提唱した。
 今日「IKKT模型」あるいは「IIB行列模型」と呼ばれるこの理論は、著者達の研究により超弦理論としての種々な無矛盾性が確認されており、超弦の多体系を記述する非摂動論的・構成的理論を与えたものとしてすでに世界的に高く評価されている。
 この理論によって、時空の次元や自然界のゲージ対称性、物質の世代数といった基本的諸問題が現実に計算可能な物理量として議論できる可能性が開かれた、という点も特筆に値する。

第16回(2001年)杉山(すぎやま) (なおし)

贈呈式年月日

2001(平成13)年11月1日

受賞者

杉山 直 氏(国立天文台理論天文学研究系 教授)

杉山氏

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受賞研究

宇宙マイクロ波背景放射ゆらぎの研究

受賞理由

 宇宙の全方向から一様に降り注いでくる絶対温度3度の電磁波-宇宙マイクロ波背景放射(CMB)-の存在は、誕生直後の宇宙が熱かったことを意味し、ビッグバン宇宙論の重要な証拠となった。
 宇宙初期には、銀河や銀河団などの宇宙の大規模構造の種となる物質の濃淡(物質密度の空間的なゆらぎ)があり、それが膨張する宇宙の中でCMBの温度に小さなゆらぎを引き起こすことが知られていた。
 杉山直氏は、このCMBの温度ゆらぎと宇宙初期の物質密度のゆらぎの関係を世界で初めて非常に精度良く解析した。そして、温度ゆらぎには、この宇宙にどれだけの物質や暗黒物質が含まれているか、宇宙項は存在するのか、という宇宙論の基礎パラメーターに関する重要な情報が含まれていることを系統的に明らかにし、現在「CMB物理」と呼ばれる分野のパイオニアとなった。
 杉山氏はその後、Wayne Hu 氏(現シカゴ大学)とともに、空間が開いているのか閉じているのか平坦なのかという宇宙の幾何構造や、宇宙の物質密度や膨張速度などの情報が、CMBの温度ゆらぎのパターンにどのように反映するのかを明快に解きほぐし、その後のCMBの温度ゆらぎの観測計画に大きな影響を与えた。
 特に、温度ゆらぎのスペクトルに現れるピークの位置から宇宙の幾何構造が決まることを指摘した仕事は、最近の気球観測による空間の平坦さの測定に決定的な役割を果たした。
 また、最近打ち上げられたMAP衛星や、数年後に打ち上げが予定されているPLANCK衛星は、温度ゆらぎのパターンの精密な測定から宇宙論パラメータを決定することを目標としているが、彼らの仕事はこれらの観測計画を推進する大きな動機ともなった。

第17回(2002年)村山(むらやま) (ひとし)

贈呈式年月日

2002(平成14)年10月31日

受賞者

村山 斉 氏(カリフォルニア大学バークレー校物理学 教授)

村山氏

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受賞研究

超共形不変性の量子異常によるゲージーノ質量生成機構

受賞理由

 素粒子の標準模型は非常な成功を収めているが、理論的に不満足な点があり、より基本的な理論の探求が素粒子物理学の重要なテーマである。こうした「標準模型を越える」理論の最有力候補として、超対称統一ゲージ理論がある。
 しかしながら、超対称性が予言する、電荷や質量が同じでスピンの違う粒子は、現実には存在しておらず、超対称性を何らかの機構で破る必要がある。超対称統一ゲージ理論の性質はこの超対称性の破れの機構に根本的に依存する。従来の代表的な超対称性の破れの機構としては、超重力相互作用を媒介後とするもの、ゲージ相互作用を媒介役とするものがあったが、フレーバーを変える中性カレント過程の頻度を自然に抑制出来なかったり、ゲージ粒子の超対称性パートナーの粒子であるゲージーノの質量が極端に小さくなってしまう、といった問題点が指摘されていた。
 村山氏を中心とするグループの人々は、基本的に超重力理論に立脚しながらも、超対称理論に特有な共形不変性と超対称性の破れの間の密接な関係に着目し、今まで見落とされていた超共形不変性の量子異常の効果による全く新しい超対称性の破れの機構を提唱した。特にこの超対称性の破れによって生じるゲージーノ質量を予言し、従来の困難が回避できる事を示した。共生対称性の量子異常はゲージ結合定数のベータ関数に反映されるため、ゲージーノ質量はベータ関数によって完全に決定され、特徴的なゲージーノ質量の間の関係を予言する。この議論は、模型の詳細に依らない普遍的な効果を取り出した、というだけでなく、摂動の全次数で成り立つという著しい特徴があり、予言能力の高いものである。高度に理論的、技術的な側面と現象論的側面との見事な融合が成し遂げられていると言える。
 提唱されたこの機構は、現在では“anomaly mediated supersymmetry breaking”と呼ばれ、超対称ゲージの理論の分野で大きな潮流を成している。村山氏には、この仕事の他にも多くの優れた業績があり、分野をリードする研究者である。

第18回(2003年)柴田(しばた) (まさる)

贈呈式年月日

2003(平成15)年10月30日

受賞者

柴田 大 氏(東京大学大学院総合文化研究科 助教授)

柴田氏

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受賞研究

連星中性子星の合体によるブラックホールの形成

受賞理由

 中性子星の連星系が重力波を放出しながらエネルギーを失い、合体し、最終的にブラックホールが形成される過程は、近い将来に到来する重力波天文学の時代に、その観測が最も有望視されている一般相対論的天体現象である。
 連星中性子星の合体過程を明らかにするためには、完全に非線形でかつ全く空間的対称性を仮定しないアインシュタイン方程式を解く必要があり、信頼できる数値的解法の確立が望まれていた。
 柴田氏は、この問題に対して、アインシュタイン方程式を極めて巧妙な形に定式化することによって、連星中性子星の合体によるブラックホールの形成や、その過程で放出される重力波の波形を高精度で求めることを可能にし、実際に世界で初めてその計算を実行して見せた。
 柴田氏はこの業績によって「数値相対論」とよばれる分野の本格的到来を導いただけでなく、将来の重力波天文学においてブラックホールの形成過程を直接検証する上で、必須の理論的予言を与えた。

第19回(2004年)古崎(ふるさき) (あきら)

贈呈式年月日

2004(平成16)年10月27日

受賞者

古崎 昭 氏(理化学研究所 中央研究所 物性理論研究室主任研究員)

古崎氏

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受賞研究

相互作用する一次元電子系における電気伝導の研究

受賞理由

 金属のような三次元電子系は、個々の電子の励起を用いて記述できるフェルミ流体として振る舞うのに対し、一次元的電子系では相互作用の効果が強く、その性質は電荷とスピンの自由度が実効的に分離した集団運動によって支配される。
 このことはすでに1950年に朝永振一郎氏が指摘しており、相互作用する一次元電子系は朝永-ラッティンジャー流体と呼ばれている。しかし、このような一次元特有の量子状態が実験的にどのように観測されるかは、最近まで十分理解されていなかった。
 古崎昭氏は、永長直人氏との一連の共同研究において、朝永-ラッティンジャー流体における量子不純物の問題を考察し、一次元電子系における局所的な電子相関効果の重要性を世界に先駆けて示し、この方面の活発な研究の口火を切った。
 これら古崎氏達の理論研究により、朝永-ラッティンジャー流体の特性を実験的に明確に示すことが可能となった。実際、古崎氏達が予言したトンネルコンダクタンスの電圧・温度依存性の測定によって、分数量子ホール系の端状態、半導体量子細線、カーボンナノチューブなどが、朝永-ラッティンジャー流体として振る舞うことが確認された。
 古崎氏にはこの他にも多くの優れた業績があり、この分野における研究を世界的にリードしている。

第20回(2005年)白水(しろみず) 徹也(てつや)

贈呈式年月日

2005(平成17)年11月2日

受賞者

白水 徹也 氏(東京工業大学大学院理工学研究科 助教授)

白水氏

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受賞研究

ブレーン宇宙上のアインシュタイン方程式

受賞理由

 重力を含む力の統一理論でもっとも有名な超弦理論では、定式化のために4次元より高い次元の時空を基礎にする必要があると考えられてきた。特に、近年の研究で、超弦理論では、ブレーン(膜)と呼ばれる古典的な場の配位が存在することが明らかにされた。
 この配位では、高次元時空の中に広がりをもつ物体であるブレーンが埋め込まれ、その上に物質やエネルギーが閉じ込められる機構が存在する。このブレーンを我々の住む世界と考えれば、我々の宇宙は高次元時空に埋め込まれたブレーンであるという新しい宇宙モデルに導かれる。
 一方、ブラックホールなどコンパクトな天体の物理現象や宇宙膨張といった強い重力に関する現象は、アインシュタインの一般相対性理論によって良く説明されている。それゆえ、ブレーン宇宙が現実的な宇宙モデルとなるためには、ブレーンの上の重力がアインシュタイン理論で記述されている必要がある。
 白水徹也氏は、ブレーン宇宙モデルの幾何学的な構造を研究し、高次元時空の曲率をブレーンに関して分解することにより、ブレーン上に第一近似としてアインシュタイン方程式が導出されていることを明らかにした。この先駆的な研究を口火に、全世界的にブレーン宇宙論の理論的研究が始まり、ブレーン宇宙モデルにおける重力現象が盛んに研究されるようになった。
 この白水氏の業績は、宇宙物理学の発展において、ブレーン宇宙モデルにおける重力理論の基礎を与えるという、重要な役割を果たした。

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